Archive

プリゴジンのノーベル講演:時間構造ゆらぎ(日本語訳)

date'2026-08-05'
source"https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/prigogine-lecture.pdf"
publictrue

original_title: Time, Structure and Fluctuations author: Ilya Prigogine date_delivered: 1977-12-08

時間、構造、ゆらぎ

ノーベル賞受賞講演 1977年12月8日

イリヤ・プリゴジン(ブリュッセル自由大学/テキサス大学オースティン校)

1. 序論

物理学・化学における「時間」の問題は、熱力学第二法則の定式化と密接に結びついている。したがって、この講演には別のタイトルもあり得た——「熱力学第二法則のマクロ的側面とミクロ的側面」。

熱力学第二法則が科学史において、当初の射程をはるかに超えた根本的な役割を果たしてきたのは注目すべき事実である。ボルツマンの気体運動論、プランクによる量子論の発見、アインシュタインの自発放出の理論——これらはすべて熱力学第二法則を基礎としていた。

この講演の主題は、我々が理論化学・理論物理学の新しい展開のまだ入り口にいるということであり、そこでは熱力学的概念がさらに基礎的な役割を果たすことになる。主題の複雑さゆえ、ここでは概念的な問題に主に限定する。概念的問題にはマクロ的側面とミクロ的側面の両方がある。例えばマクロの視点からは、古典熱力学は結晶のような平衡構造の概念をすでに大きく明らかにしている。熱力学的平衡は、通常次のように定義されるヘルムホルツ自由エネルギーの最小値によって特徴づけられる。

我々の周りにある「組織」の大半はこの性質のものだろうか。そう問うだけで答えが否であることがわかる。町においても、生きているシステムにおいても、我々は明らかにまったく異なる種類の機能的秩序を目にする。この種の構造に対する熱力学理論を得るには、非平衡が秩序の源になりうることを示さなければならない。不可逆過程は、私が「散逸構造」と呼んできた新しいタイプの物質の動的状態をもたらしうる。第2〜4節はこうした構造の熱力学理論に充てられる。

これらの構造は、今日、化学と生物学において特別な関心を集めている。それらは首尾一貫した超分子的性格を示し、例えば振動する酵素を含む生化学的サイクルにおいて、きわめて劇的な現れ方をする。

こうした首尾一貫した構造は、反応的な衝突の結果としてどのように現れるのか。この問いは第5節で手短に論じる。ここで強調しておきたいのは、従来の化学反応速度論は、ファンデルワールスの状態方程式やワイスの強磁性理論とよく似た「平均場」理論に対応しているということである。これらの場合とまったく同様に、平均場理論は新しい散逸構造が生じる不安定点の近くで破綻する。ここでも(平衡理論の場合と同じく)ゆらぎが本質的な役割を果たす。

最後の2節ではミクロ的側面に転じる。我々のグループがこの方向で行ってきた最近の研究を手短に振り返る。この仕事は不可逆過程のミクロな定義に至る。しかしこれは、不可逆性と熱力学的平衡への接近を明示的に示す新しい非ユニタリー運動方程式を導入できるような変換理論を通じてのみ可能になる。

熱力学的要素を組み込むことは(古典・量子いずれの)力学の再定式化に至る。これはきわめて驚くべき特徴である。今世紀の初頭以来、我々は素粒子のミクロ世界や宇宙論的スケールのマクロ世界において新しい理論構造を見出す心構えができていた。しかし今や、我々自身のスケールの現象に対してさえ、熱力学的要素の組み込みが新しい理論構造をもたらすことがわかる。これは、時間が単に運動に伴う幾何学的パラメータとしてではなく、不可逆性や「歴史」と結びついた完全な意味を持つような理論的方法を定式化するために我々が支払わねばならない代償である。

2. エントロピー生成

熱力学第二法則の核心には、「可逆過程」と「不可逆過程」の基本的な区別がある。これは最終的にエントロピー S の導入と第二法則の定式化に至る。クラウジウスによる古典的な定式化は、外界とエネルギーも物質もやり取りしない孤立系を対象とする。第二法則は単に、平衡状態で最大値に達するまで単調に増加する関数、エントロピー S の存在を確認するにすぎない。

これを、外界とエネルギー・物質をやり取りする系に拡張するのは容易である(図2.1参照)。

我々はエントロピー変化 dS を二つの項に分けなければならない。第一は d_eS で、これは系の境界を通じたエントロピーの移動であり、第二は d_iS で、これは系内部で生成されたエントロピーである。第二法則は、系内部のエントロピー生成が正(またはゼロ)であることを前提とする。

エントロピー S は孤立系にとってのリアプノフ関数である。すべての教科書に示されている通り、ヘルムホルツ自由エネルギーやギブス自由エネルギーのような熱力学ポテンシャルも、他の「境界条件」(温度・体積が課される場合など)に対するリアプノフ関数である。

これらすべての場合において、系は熱力学ポテンシャルの存在によって特徴づけられる平衡状態へと発展する。この平衡状態は非平衡状態に対する「アトラクター」である。これはプランクが正しく強調した本質的な側面である。

しかし熱力学ポテンシャルが存在するのは例外的な状況に限られる。不等式(2.2)は、ある関数の全微分を含まないため、一般にはリアプノフ関数を定義することを許さない。この点に戻る前に強調しておきたいのは、その定式化から150年を経た今も、熱力学第二法則はエントロピー生成については符号以外何も正確なことが述べられておらず、通常の意味でのきちんと定義された理論というより、依然として一つの「プログラム」のように見えるということである。この不等式の妥当な範囲さえ特定されていない。これが、熱力学の応用が本質的に平衡に限られてきた主な理由の一つである。

熱力学を非平衡過程へ拡張するには、エントロピー生成の明示的な表式が必要である。この方向での進展は、平衡から外れていてもエントロピーが平衡時と同じ変数だけに依存すると仮定することで達成されてきた。これが「局所平衡」の仮定である。この仮定を受け入れれば、単位時間あたりのエントロピー生成 P について式(2.3)が得られる。ここで J_p は関与する種々の不可逆過程(化学反応、熱流、拡散……)の速度であり、対応する一般化力(親和力、温度勾配、化学ポテンシャルの勾配……)である。これが不可逆過程のマクロ熱力学の基本式である。

強調しておきたいのは、この明示的な表式(2.3)を導くために補足的な仮定を用いたということである。この式は平衡のある近傍でのみ成立しうる(文献3参照)。この近傍が「局所」平衡の領域を定義し、これについては第7節で統計力学の観点から論じる。

熱力学的平衡においては、すべての不可逆過程について同時に成り立つ。

不可逆過程の線形熱力学は二つの重要な結果に支配されている。第一はオンサーガーの相反関係で、これは、不可逆過程 p に対応する流れ J_p が、不可逆過程 q の力 X_q によって影響を受けるとき、流れ J_q もまた同じ係数を通じて力 X_p によって影響を受けることを述べる。

オンサーガー関係の重要性は、その一般性にある。これらは多くの実験的検証に付されてきた。その妥当性は、非平衡熱力学もまた平衡熱力学と同様に、特定の分子モデルに依存しない一般的な結果に至ることを初めて示した。相反関係の発見は、熱力学の歴史における真の転換点に相当する。

平衡近傍で有効な第二の興味深い定理は、最小エントロピー生成の理論である。これは、平衡に十分近い定常状態においてエントロピー生成が最小値に達することを述べる。(同じ境界条件に対応する)時間依存の状態は、より高いエントロピー生成を持つ。強調すべきは、最小エントロピー生成の定理は線形関係(2.5)よりもさらに制約的な条件を要求するということである。これは、平衡からのずれが小さく現象論的係数を定数として扱えるような、「厳密に」線形な理論の枠内でのみ成り立つ。

最小エントロピー生成の定理は、非平衡系のある種の「慣性的」性質を表現している。与えられた境界条件が系を熱力学的平衡(すなわちゼロのエントロピー生成)に到達させないようにすると、系は「最小散逸」の状態に落ち着く。

この定理の定式化以来、この性質が平衡の近傍でのみ厳密に妥当することは明らかであった。長年にわたり、この定理を平衡からさらに離れた状況へ一般化しようとする大きな努力がなされてきた。最終的に、平衡から遠く離れると熱力学的挙動がまったく異なりうる——実際、最小エントロピー生成の定理が示すものとは正反対になりうる——ことが示されたとき、それは大きな驚きをもって受け止められた。

注目すべきは、この新しいタイプの挙動が、古典流体力学で研究される典型的な状況にすでに現れているということである。この観点から最初に解析された例は、いわゆる「ベナール不安定性」である。一定の重力場のもとで二つの無限に広い平行平面の間にある水平な流体層を考え、下側の境界を温度 T1、上側の境界を温度 T2(T1 > T2)に保つとする。「逆」勾配が十分大きな値になると、静止状態は不安定になり対流が始まる。対流が熱輸送の新しい機構を提供するため、エントロピー生成はそこで増加する。さらに、不安定性を超えて現れる流れの状態は、静止状態と比べて一つの組織化の状態である。実際、流れのパターンを実現するには、巨視的な数の分子がマクロな時間スケールにわたって首尾一貫した仕方で運動しなければならない。

ここに、非平衡が秩序の源になりうるという事実の良い例がある。第3節・第4節では、この状況が流体力学的な場合に限られず、運動論的法則に対して明確に定義された条件が課されるとき、化学系においても生じることを見る。

興味深いことに、正準分布として表現されるボルツマンの秩序原理は、ベナール対流の発生にほとんどゼロの確率しか割り当てないだろう。平衡から遠く離れて新しい首尾一貫した状態が生じるときはいつでも、複雑さ(コンプレクシオン)の数え上げに含意される確率という概念そのものが破綻する。ベナール対流の場合、平均状態からのゆらぎとして小さな対流電流が常に現れていると想像することができる。しかし温度勾配のある臨界値以下では、これらのゆらぎは減衰して消える。しかしある臨界値を超えると、あるゆらぎが増幅されてマクロな電流を生じさせる。新しい超分子的秩序が現れ、これは基本的に、外界とのエネルギー交換によって安定化された巨大なゆらぎに対応する。これが「散逸構造」の発生によって特徴づけられる秩序である。

散逸構造の可能性についてさらに論じる前に、リアプノフ関数の理論との関連で熱力学的安定性理論のいくつかの側面を手短に振り返っておこう。

3. 熱力学的安定性理論

熱力学的平衡に対応する状態、あるいは線形非平衡熱力学におけるエントロピー生成最小に対応する定常状態は、自動的に安定である。我々はすでに第2節でリアプノフ関数の概念を導入した。最小エントロピー生成の定理によれば、平衡近傍の厳密な線形領域において、エントロピー生成そのものがまさにそのようなリアプノフ関数である。系が擾乱を受けると、エントロピー生成は増加するが、系はエントロピー生成の最小値に戻ることで反応する。

同様に、閉じた平衡状態はエントロピー最大に対応するときに安定である。系をその平衡値の周りで擾乱すると、次の式が得られる。グランスドルフと著者が示したように、この量は境界条件によらず平衡近傍でリアプノフ関数である。古典熱力学は、この重要な表式を明示的に計算することを可能にする。

(式3.1〜3.4はPDFの数式組版のため文字抽出時に本文だけが残り数式そのものが欠落している。要旨のみ記す)——これらの不等式のために、この過剰エントロピー(δ²S に相当する量)はリアプノフ関数であり、その存在はすべてのゆらぎの減衰を保証する。それゆえ平衡近傍では、大きな系に対してマクロな記述で十分なのである。ゆらぎはマクロ法則への補正として現れるにすぎない従属的な役割しか果たせず、大きな系ではこれを無視できる。

我々はいま、根本的な問いを検討する準備ができている。この安定性の性質を、平衡からさらに離れたところまで外挿できるだろうか。マクロな記述の枠内でより大きな平衡からのずれを考えるとき、この量(δ²S)はリアプノフ関数の役割を果たすだろうか。今度は非平衡状態の周りで擾乱を計算する。不等式(3.2)はマクロ記述の範囲内では依然として成立する。しかしこの量の時間微分は、もはや(3.4)のように全エントロピー生成には関係せず、このエントロピー生成の「擾乱」に関係する。言い換えれば、我々は式(3.5)を持つ。

右辺は我々が「過剰エントロピー生成」と呼んだものである。ここでも強調しておくが、これらは定常状態からのずれであり、その安定性を擾乱によって検証しているのである。今度は、平衡あるいは平衡近傍の状況で起きることとは対照的に、(3.5)の右辺(過剰エントロピー生成に対応する)は一般には確定した符号を持たない。もし擾乱開始時刻 t0 より後のすべての t についてこれが負であれば、このδ²Sは確かにリアプノフ関数であり、安定性が保証される(図3.2参照)。線形領域では過剰エントロピー生成はエントロピー生成そのものと同じ符号を持ち、最小エントロピー生成の定理と同じ結果を回復することに注意されたい。しかし平衡から遠い領域では状況が変わる。そこでは化学反応速度論の形が本質的な役割を果たす。

次節ではいくつかの例を検討する。適切な種類の化学反応速度論に対しては、系は不安定になりうる。これは、平衡の法則と平衡から遠く離れたところでの法則との間に本質的な違いがあることを示している。平衡の法則は普遍的である。しかし平衡から遠く離れると、挙動はきわめて特殊なものになりうる。これはもちろん歓迎すべき事態である。というのも、これによって、平衡の世界では理解不能であったはずの物理系の挙動に区別を導入することが可能になるからである。

これらの考察はすべてきわめて一般的なものであることに注意されたい。マクロな運動が生成されうる系や、表面張力・外場の効果を含む問題にも拡張できる。例えばマクロな対流を含む場合、マクロな対流速度 u を考慮したより複雑な表式を検討しなければならない。この結果は他所(グランスドルフ&プリゴジン)に見出せるのでここでは再現しない。ただ、熱力学的平衡にある静止状態から自発的な内部対流の励起は生じ得ないということだけ述べておく。これはもちろん第2節で触れたベナール不安定性にも特殊な場合として当てはまる。

さて化学反応の場合に戻ろう。

4. 化学反応への応用

一般的な結果として、不等式(3.6)を破るには自己触媒反応が必要である。より正確には、自己触媒的なステップは、熱力学的分枝の安定性が破綻するための必要条件(ただし十分条件ではない)である。

簡単な例を考えよう。いわゆる「ブラッセレーター」で、これは次の反応スキームに対応する(式4.2)。この系は定常状態(4.3)を許す。熱力学的安定性判定基準あるいは基準モード解析を用いれば、ある条件のもとでこの解(4.3)が不安定になることを示せる。……ロトカ・ヴォルテラ型の振動化学反応と対照的に、振動の周波数は濃度・温度などのマクロな変数のよく定義された関数である。化学反応は首尾一貫した時間挙動をもたらす。それは「化学時計」になる。文献ではしばしばこれを「ホップ分岐」と呼ぶ。

拡散を考慮に入れると、不安定性の種類はきわめて驚くべきものになり、このため反応スキーム(4.1)は過去数年間、多くの著者によって研究されてきた。特別な名称まで導入されている——これは一般に「ブラッセレーター」と呼ばれる。拡散が存在する場合、方程式(4.2)は式(4.5)のようになる。

リミットサイクルに加え、いまや不均一な定常状態の可能性がある。これを「チューリング分岐」と呼んでよいだろう。というのも、チューリングが1952年の形態形成に関する古典的論文で、化学反応速度論におけるこうした分岐の可能性に初めて気づいたからである。拡散が存在すると、リミットサイクルも空間依存性を持つようになり、化学波動をもたらす。

熱力学的分枝に対応する解を「基本解」とみなすことで、結果にある種の秩序をもたらすことができる。他の解は、この基本解からの逐次的な分岐として、あるいは平衡からの距離が増大するにつれて生じる非熱力学的分枝からのより高次の分岐として得られる。

一般的に興味深い特徴は、散逸構造が化学系の環境を特徴づける大局的な特徴——サイズや形、表面に課される境界条件など——にきわめて敏感だということである。これらすべての特徴が、散逸構造をもたらす不安定性の種類に決定的な影響を与える。

平衡から遠く離れると、したがって、化学反応速度論と反応系の「時空間構造」との間に予期しない関係が現れる。確かに、関連する反応速度定数や輸送係数の値を決めている相互作用は、短距離の相互作用(原子価力、水素結合、ファンデルワールス力)に由来する。しかし反応速度方程式の解は、それに加えて大局的な特性にも依存する。この依存性は、平衡近傍の熱力学的分枝上ではむしろ自明なものであるが、平衡から遠く離れた条件下で働く化学系においては決定的なものになる。例えば散逸構造の発生は、一般に系のサイズがある臨界値を超えることを要求する。この臨界値は、反応拡散過程を記述するパラメータの複雑な関数である。したがって我々は、化学的不安定性は、系が全体として働く長距離秩序を含むと言うことができる。

散逸構造には常に結びついている三つの側面がある。すなわち化学方程式によって表現される機能、不安定性から生じる時空間構造、そして不安定性を引き起こすゆらぎである。これら三つの側面の相互作用は、次節で分析する「ゆらぎを通じた秩序」を含む、きわめて予期しない現象をもたらす。

一般に、ある特徴的なパラメータ(ブラッセレータースキームの B など)の値を増加させるとき、逐次的な分岐が生じる。

図4.1では、ある値 λ1 に対しては単一の解しかないが、値 λ2 に対しては複数の解がある。

興味深いのは、分岐がある意味で物理学に「歴史」を導入するということである。図4.1に示された分岐図を持つ系が状態 C にあり、λ の値の増大を通じてそこに至ったと観測されたとしよう。この状態 X を解釈するには、系が分岐点 A および B を通過せねばならなかったという、系の過去の歴史の知識が必要になる。このようにして我々は、物理学・化学に「歴史的」な要素——これまでは生物学的、社会的、文化的現象を扱う科学にのみ留保されているように見えた要素——を導入するのである。

分岐を持つ系のあらゆる記述は、決定論的要素と確率論的要素の両方を含意することになる。第5節でさらに詳しく見るように、系は二つの分岐点の間では化学反応速度論の法則のような決定論的法則に従うが、分岐点の近傍ではゆらぎが本質的な役割を果たし、系がたどる「枝」を決定する。

ここでは分岐の理論やその様々な側面——例えばルネ・トムによるカタストロフィー理論——には立ち入らない。これらの問題はG.ニコリスとの共著の最近の著書で論じられている。化学・生物学における首尾一貫した構造の例を列挙することもしない。これも多くの例が同書に見出せる。

5. 大数の法則と化学反応の統計的記述

さて、散逸構造の形成の統計的側面に転じよう。従来の化学反応速度論は、衝突の平均数、より具体的には反応性衝突の平均数の計算に基づいている。これらの衝突はランダムに起こる。しかし、そのようなカオス的な挙動がどうして首尾一貫した構造をもたらしうるのか。明らかに何か新しい特徴が入ってこなければならない。手短に言えば、それは大数の法則が成立するための条件の破綻である。その結果、不安定性の近くでは反応粒子の分布はもはやランダムではなくなる。

まず大数の法則が何を意味するか示しておこう。そのために、科学・技術の多くの分野で重要なきわめて典型的な確率記述——ポアソン分布——を考える。この分布は整数値 X = 0, 1, 2, 3, … をとる変数 X を含む。ポアソン分布によれば X の確率は式(5.1)で与えられる。この法則は、電話の着信数の分布、レストランでの待ち時間、与えられた濃度の媒質中の粒子のゆらぎなど、幅広い状況で妥当であることが分かっている。式(5.1)において、 は X の平均値に対応する。ポアソン分布の重要な特徴は、 が分布に入る唯一のパラメータだということである。確率分布はその平均によって完全に決まる。

相対ゆらぎの大きさのオーダーは、平均の平方根に反比例する。したがって、オーダー N の示量変数に対しては、オーダー N^(-1/2) の相対偏差が得られる。これが大数の法則の特徴的な性質である。その結果、大きな系についてはゆらぎを無視してマクロな記述を用いてよいことになる。

他の分布では平均二乗偏差は(5.3)のように平均に等しいとは限らない。しかし大数の法則が成り立つ限り、平均二乗偏差のオーダーは依然として同じであり、我々は同様の関係を得る。

さて化学反応の確率モデルを考えよう。これまでしばしば行われてきたように、化学反応に「生成消滅」型のマルコフ連鎖過程を対応させるのは自然である。これは直ちに、時刻 t に X という種の分子を X 個見出す確率 P(X, t) に関するマスター方程式に至る。

右辺には「増加」項と「減少」項の間の競合がある。古典的なブラウン運動の問題との特徴的な違いは、遷移確率 W(X→X-r) や W(X→X+r) が占有数について非線形だということである。化学のゲームは非線形であり、これが重要な違いをもたらす。例えば、線形化学反応に対応する X の定常分布はもはやポアソン分布では与えられないことが容易に示せる。

これはマクロな反応速度論の観点からきわめて重要である。実際、マレク=マンスールとニコリスが示したように、マクロな化学方程式は一般に、ポアソン分布からのずれに伴う項によって補正されねばならない。これが、今日これほど多くの注意が化学反応の確率理論に向けられている基本的な理由である。

例えばシュレーグル反応(5.9)は、ニコリスとターナーによって広範に研究され、彼らはこのモデルが古典的なファンデルワールス方程式が記述するものときわめてよく似た「非平衡相転移」に至ることを示した。臨界点の近傍、および共存曲線の近傍では、(5.5)で表される大数の法則は破綻し、この量は体積のより高いべき乗に比例するようになる。平衡相転移の場合と同様、この破綻は臨界指数を用いて表現できる。

平衡相転移の場合、臨界点近くのゆらぎは大きな振幅を持つだけでなく、長距離にわたっても広がる。ルマルシャンとニコリスは、非平衡相転移についても同じ問題を検討した。計算を可能にするため、彼らは一連のボックスの列を考えた。各ボックスの中でブラッセレーター型の反応(4.1)が起こっている。さらに、ボックス間には拡散がある。

マルコフ法を用いて、彼らは異なる二つのボックスにおける X の占有数の間の相関を計算した。化学的な非弾性衝突と拡散が組み合わさればカオス的な挙動に至ると予想されるかもしれない。しかしそうはならない。図5.1〜5.3には、臨界状態の下および近傍における相関関数がグラフで示されている。臨界点の近くでは長距離の化学的相関があることがはっきりと見て取れる。化学的相互作用の短距離的性格にもかかわらず、系はここでも全体として働く。カオスが秩序を生む。さらに数値シミュレーションは、粒子数 N が無限大に向かう極限においてのみ、我々が「長距離」の時間的秩序に近づくことを示している。

この結果を少なくとも定性的に理解するために、相転移との類推を考えよう。常磁性物質を冷やしていくと、いわゆるキュリー点に達し、それ以下では系は強磁性体のように振る舞う。キュリー点より上ではすべての方向が同じ役割を果たす。それより下では、磁化の方向に対応する特権的な方向が存在する。マクロな方程式の中には、磁化がどの方向を取るかを決めるものは何もない。原理的にはすべての方向が等しくありうる。もし強磁性体が有限個の粒子しか含まないなら、この特権的な方向は時間的に維持されないだろう。それは回転してしまう。しかし無限の系を考えるなら、いかなるゆらぎも強磁性体の方向を変えることはできない。長距離秩序は一度確立されれば永続する。

振動する化学反応の場合にも、これと著しく類似した状況がある。平衡からの距離を増やしていくと、系は振動し始める。それはリミットサイクルに沿って動く。リミットサイクル上の位相は最初のゆらぎによって決まり、磁化の方向と同じ役割を果たす。系が有限であれば、ゆらぎは次第に優勢になり回転を乱していく。しかし系が無限であれば、強磁性系における長距離の空間秩序ときわめてよく似た、長距離の時間的秩序を得ることができる。したがって我々は、周期的反応の出現が、強磁性がまさに空間対称性の破れであるのとちょうど同じように、時間対称性の破れの過程であることを見る。

6. リアプノフ関数の力学的解釈

ここからは、これまで用いてきたエントロピー、より具体的にはリアプノフ関数のもつ力学的な意味をより詳しく検討する。

まず、この問題に対するボルツマンのアプローチをごく手短にまとめておこう。今日でもボルツマンの仕事は一つの金字塔として立っている。よく知られているように、ボルツマンによるH定理の導出における本質的な要素は、(後で立ち戻るリウヴィル方程式で表される)厳密な力学方程式を、分子の速度分布関数 f に関するこの反応速度方程式で置き換えたことにあった。

……これがゆえに、リアプノフ関数の役割を果たす。

ボルツマンのアプローチを通じて達成された進歩は目覚ましいものである。しかし多くの困難がなお残っている。まず「実際上の困難」がある。例えばボルツマンの結果をより一般的な状況(例えば密なガス)に拡張することの困難さである。運動論はここ数年で目覚ましい進歩を遂げたが、運動論や非平衡統計力学の最近の教科書を見ても、より一般的な場合にも妥当するボルツマンのH定理に類するものは見当たらない。したがってボルツマンの結果は、我々が熱力学第二法則に帰する一般性とは対照的に、かなり孤立したものにとどまっている。

さらに「理論上の困難」がある。最も深刻なのはおそらくロシュミットの可逆性のパラドックスである。手短に言えば、分子の速度を反転させれば、我々は初期状態に戻る。この初期状態への接近の間、ボルツマンのH定理は破られる。我々は「反熱力学的な挙動」を得るのである。この結論は、例えばコンピュータシミュレーションによって検証できる。

ボルツマンのH定理が破られる物理的な理由は、速度の反転によって導入される長距離相関にある。こうした相関は例外的であり無視してよいと論じたくなるかもしれない。しかし、特に密な系を考える場合、「異常な」相関と正常な相関とを区別する基準をどうやって見出せばよいのか。

速度分布の代わりに、位相密度に対応するギブスのアンサンブルを考えると、状況はさらに悪くなる。その時間発展はリウヴィル方程式によって与えられる。正の凸な汎関数を考えると……したがって、(6.5)や(6.6)で定義されるこの量はリアプノフ関数ではなく、古典力学あるいは量子力学の法則は、エントロピーの役割を果たすようなリアプノフ汎関数を構成すること自体を妨げているように見える。

このため、不可逆性は力学の法則に付け加えられた粗視化(コースグレイニング)のような補足的な近似を通じてしか導入できない、としばしば述べられてきた。

私はこの結論を、特に不可逆過程の建設的な役割を考えるとき、常に受け入れがたいと感じてきた。散逸構造は間違いの結果でありうるだろうか。

このパラドックスの解決がどの方向にあるかについてのヒントは、なぜボルツマンの運動方程式からはH定理を導けるのに、リウヴィル方程式からは導けないのかを問うことで得られる。リウヴィル方程式(6.4)は明らかに Lt 不変である。L の符号(これは古典力学では速度反転によって行える)と t の符号の両方を反転させても、リウヴィル方程式は不変のままである。他方、ボルツマン方程式の衝突項は L について偶であるため、Lt 対称性を破ることが容易に示せる。したがって我々の問いは次のように言い換えられる。古典力学や量子力学に内在する Lt 対称性をどうすれば破れるのか。我々の立場は次のようなものであった。力学的な記述と熱力学的な記述は、ある意味で、非ユニタリー変換によって結びついた系の発展の「等価な」表現である。以下、我々がどう進めたかを手短に示す。ここで用いる方法は、ブリュッセルとオースティンの同僚たちと緊密に協力して開発してきたものである。

7. 非ユニタリー変換理論

式(6.6)は不適切であることが分かったので、我々は次の形のリアプノフ関数から出発する。これは常に可能とは限らない。古典力学あるいは量子力学において運動が周期的であるような単純な力学的状況では、系がある時間の後に初期状態に戻ってしまうため、リアプノフ関数は存在しえない。

M の存在は、リウヴィル演算子のスペクトルの型に関係している。古典エルゴード理論の枠組みでは、この問題は最近ミスラによって研究された。ここでは、(7.1)における演算子 M の存在がもたらしうるいくつかの帰結を追う。これは「エントロピーのミクロな表現」とみなせるかもしれない。この量は正であるため、一般的な定理により、これをある演算子(Λ^-1 としよう)とそのエルミート共役の積として表すことができる(これは正の演算子の「平方根」を取ることに対応する)。

これはきわめて興味深い結果である。というのも、式(7.4)はまさに我々が最初から探していた種類のものだからである。しかしこの式は、(7.5)の変換によって先行するものと関連づけられた「新しい」表示においてのみ存在しうることが分かる。

まず新しい運動方程式を書き下そう。(7.5)を考慮すると、式(7.6)、(7.8)が得られる。ミクロな「エントロピー演算子」M は、したがって L と交換しないかもしれない。この交換子はまさに「ミクロなエントロピー生成」と呼びうるものを表す。

我々はもちろん、ハイゼンベルクの不確定性関係やボーアの相補性原理を想起する。ここでも非可換性——ただし今度は演算子 L で表される力学と M で表される「熱力学」との間の非可換性——を見出すのはきわめて興味深い。したがって我々は、軌道や波動関数の知識を含意する力学と、エントロピーを含意する熱力学との間の、新しいきわめて興味深い種類の相補性を得る。

新しい表示への変換が実行されると、エントロピー生成について式(7.9)が得られる。これは、Λ とそのエルミート共役 Λ† との差が消えないことを意味する。

非ユニタリーな変換則が得られたことは驚くにはあたらない。ユニタリー変換は座標の変更にきわめてよく似ており、問題の物理には影響しない。どの座標系を選ぼうと、系の物理は変わらない。しかしここで我々が扱っているのはまったく異なる問題である。我々はある種類の記述——力学的な記述——から別の種類の記述——「熱力学的な」記述——へと移りたいのである。これがまさに、新しい変換則(7.13)で表されるような、より抜本的な種類の表示の変更を必要とする理由である。

我々はこの変換を「スター・ユニタリー」変換と呼び、この記法を導入した。

……偶の部分が「エントロピー生成」を与える。

ここまで達成されたことをまとめよう。我々は、(古典力学・量子力学におけるリウヴィル方程式のような)ミクロな方程式の新しい形式を得たが、これはリアプノフ関数に結びつけられる部分を明示的に示すという点で異なる。言い換えれば、この方程式はマクロな不可逆的記述と平均化の手続きに至る。

リアプノフ関数(7.1)の効果的な構成は、変換 Λ を通じて、リウヴィル演算子に対応するレゾルベントの特異性の注意深い研究を伴う。

熱力学的平衡からの小さなずれについては、グレコス、テオドソプルとともに最近示したように、リアプノフ汎関数(7.1)は、保存量の時間発展のみを保持する場合に加えて、マクロな量(3.2)にまさに帰着することが示せる。したがって我々は、少なくとも線形領域において、非平衡熱力学と統計力学との関連を完全な一般性のもとに確立したことになる。これは、希薄気体について妥当なボルツマン理論の枠内でずっと以前に得られていた結果の拡張である。

8. 結びの言葉

ここでいくつかの結びの言葉を述べる。

非ユニタリー変換理論を通じた熱力学的不可逆性の組み込みは、力学の構造の深い変容をもたらす。我々は群から半群へ、軌道から過程へと導かれる。この展開は、今世紀における我々の物理世界の記述における主要な変化のいくつかと軌を一にしている。

アインシュタインの相対性理論の最も重要な側面の一つは、我々が空間と時間の問題を、信号の伝播速度を制限する光速の問題と切り離して論じることができないということである。同様に、「観測不可能なもの」の排除は、ハイゼンベルクによって開始された量子論への基本的なアプローチにおいて重要な役割を果たしてきた。

相対性理論と熱力学とのこの類推は、アインシュタインとボーアによってしばしば強調されてきた。我々は任意の速さで信号を伝播させることはできないし、第二法則によって禁じられた永久機関を構築することもできない。ミクロな観点からすれば、この最後の禁止は、系が熱力学第二法則を満たす場合、力学の観点からはよく定義されている量が観測量ではありえないことを意味する。

例えば、系全体としての軌道は観測量ではありえない。もしそうであれば、我々はあらゆる瞬間に二つの軌道を区別できることになり、熱平衡という概念はその意味を失ってしまうだろう。力学と熱力学は互いを制限し合っている。

興味深いのは、力学的相互作用と不可逆性との関係が、これまで考えられてきたよりも深い役割を果たすかもしれないことを、現時点で示唆する他の理由が存在するということである。

量子力学の定式化においてきわめて重要であった可積分系の古典理論では、すべての相互作用は適切な正準変換によって除去できる。これは、特に素粒子とその相互作用を扱う状況を考えるとき、本当に検討すべき力学系の正しい原型なのだろうか。まず、可逆過程と不可逆過程をミクロなレベルで解きほぐすことを可能にする非正準的な表示に行き、その後にのみ可逆的な部分を除去して、それでもなお相互作用しているよく定義された単位を得るべきではないだろうか。

これらの問いは、おそらく今後数年のうちに明らかになるだろう。

しかしすでに今、理論の展開は我々に、様々なレベルの時間を区別することを可能にしている。すなわち古典力学・量子力学に伴う時間、リアプノフ関数を通じて不可逆性に伴う時間、そして分岐を通じて「歴史」に伴う時間である。私は、この時間概念の多様化が、理論物理学・化学と、自然の他の側面を扱う諸学問とのより良い統合を可能にすると信じている。

謝辞

この講演は、ブリュッセルとオースティンの同僚たちと緊密に協力して得られた結果の概観を与えるものである。彼ら全員に個別に感謝することは不可能である。しかし、この講演の最終版の準備にあたって助力してくれたG.ニコリス教授とJ.メーラ教授には感謝の意を表したい。

要旨

我々は、熱力学第二法則のマクロ的側面とミクロ的側面から生じる根本的な概念上の問題を扱った。非平衡が秩序の源になりうること、そして不可逆過程が「散逸構造」と呼ばれる新しいタイプの動的な物質の状態に至りうることが示される。こうした構造の熱力学理論の概要が示される。不可逆過程のミクロな定義が与えられ、不可逆性と熱力学的平衡への接近を明示的に示す非ユニタリー運動方程式を導入することを可能にする変換理論が展開される。この分野におけるブリュッセル・グループの仕事が手短に振り返られる。我々は、熱力学的概念がますます大きな役割を果たすことになる理論化学・理論物理学の新しい展開の、まだ入り口にいると信じている。


訳注